40代・50代からの非課税投資:相続・贈与も考慮したつみたてNISA・iDeCo戦略
つみたてNISAやiDeCoといった非課税投資制度は、老後資金形成に向けた長期的な資産形成において非常に有効な手段です。計画的に積立を継続されている多くの皆様は、将来の資産活用や出口戦略について具体的に検討される時期に来ているかと存じます。
しかし、自身のライフプランにおける資産活用だけでなく、万が一の場合や、ご自身の資産を次世代へ引き継ぐ「相続・贈与」といった観点から、非課税投資で築いた資産をどのように考え、活用していくべきか、といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、つみたてNISA・iDeCoで形成した非課税資産を、ご自身の老後資金として活用する計画と並行して、将来の相続や贈与といった資産承継の視点も加えてどのように考え、具体的な戦略を立てていくべきか、そのヒントをご提供いたします。
非課税資産の相続・贈与に関する基本的な取り扱い
まず、つみたてNISAおよびiDeCoの資産が、運用期間中や運用終了後に相続の対象となった場合の基本的な取り扱いについて確認しておきましょう。
つみたてNISA口座内の資産
つみたてNISA口座の契約者(被相続人)が亡くなった場合、口座は閉鎖され、口座内の有価証券は相続の対象となります。相続人は、これらの有価証券を被相続人の相続開始時点の時価で評価し、相続財産として相続税の課税対象に含めることになります。
つみたてNISA口座は相続人が引き継いで非課税で運用を継続することはできず、相続によって取得した金融商品は、相続人の特定口座や一般口座に移管されます。この際、新たな取得価額は相続開始日(またはその日を含む週の終値など、証券会社の定める基準)の時価となります。将来、相続人がこれらの商品を売却した場合の譲渡所得税は、この相続時評価額を基準に計算されます。つまり、つみたてNISAの運用益に対する非課税メリットは被相続人一代限りで終了し、相続後の運用益には課税が発生します。
iDeCo口座内の資産
iDeCo(個人型確定拠出年金)の資産は、加入者(被相続人)が亡くなった場合、「死亡一時金」または「遺族年金」として、あらかじめ指定された受取人または法定相続人に支払われます。これは遺産分割協議の対象となる相続財産とは異なる「みなし相続財産」として扱われる場合があります。
iDeCoの死亡一時金は、受取人の一時所得として課税されますが、死亡後5年以内に一時金として受け取る場合は「みなし退職所得」として取り扱われ、一定の控除(相続税の生命保険金等の非課税枠とは異なります)が適用されます。これは相続財産とは分離して計算されるため、他の相続財産が多い場合などに税負担を軽減できる可能性があります。
遺族年金として受け取る場合は、公的年金等と同様に雑所得として課税されますが、受取人が税法上の遺族に該当する場合は非課税となります。ただし、一般的には一時金で受け取るケースが多く見られます。
いずれの場合も、iDeCoの資産は死亡によって非課税運用が終了し、受け取る際に税金が発生する可能性があることを理解しておく必要があります。
生前贈与の可能性
つみたてNISAやiDeCoの口座、あるいは口座内の金融商品を生存中に第三者へ贈与することは、制度上想定されていません。iDeCoは個人に紐づく制度であり、つみたてNISA口座も名義変更はできません。
非課税投資で築いた資産を将来世代に引き継ぐために生前贈与を検討する場合、一度金融商品を売却して現金化し、その現金を贈与するという方法が考えられます。ただし、この売却益につみたてNISAでは非課税メリットが享受できますが、その現金を贈与する際には、贈与税の課税対象となる可能性があります。贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、それを超える贈与には税金が発生します。
相続を見据えた非課税資産の運用戦略
ご自身の老後資金を確保しつつ、将来残る可能性のある資産の相続も視野に入れた場合、非課税資産の運用にどのような視点を取り入れるべきでしょうか。
自身のライフプランを最優先に
最も重要なのは、つみたてNISA・iDeCoはご自身の老後資金形成のための制度であることを忘れないことです。まずは、ご自身の老後生活に必要な資金を確保できるような運用計画を立てることが第一です。その上で、将来的に資産が残る可能性がある場合に、相続や贈与との関連を考慮するという順序で考えるのが現実的です。
資産全体における非課税資産の位置づけ
つみたてNISA・iDeCoだけでなく、特定口座や預貯金、不動産なども含めた資産全体を把握し、それぞれの資産がご自身のライフプランや将来の資産承継計画の中でどのような役割を担うかを検討します。
例えば、特定口座で含み益の大きい資産がある場合、相続時にはその時価が評価額となります。将来的な売却益への課税を考慮すると、自身の資金ニーズが発生した際に、特定口座の資産を優先的に取り崩す、あるいは非課税口座で築いた資産を積極的に活用し、特定口座の資産を温存するといった選択も考えられます。
非課税期間終了後の資産の扱い
つみたてNISAの非課税期間が終了した後、資産を課税口座(特定口座など)に移管した場合、その後の運用益には課税が発生します。この課税口座に移管された資産も相続税の対象となります。
もし非課税期間終了時点で大きな含み益が出ており、かつ近いうちに資金ニーズがない場合は、そのまま課税口座に移管して運用を継続する選択肢があります。将来この資産が相続の対象となった場合、相続税の対象となりますが、その後相続人が売却する際の取得価額は相続時評価額となるため、相続後の譲渡所得税を抑えられる可能性があります。自身の資金ニーズと、将来の相続における税負担、相続人の状況などを総合的に考慮し、非課税期間終了後の資産の扱いを検討することが重要です。
生前贈与を考慮したキャッシュフローと非課税投資
つみたてNISA・iDeCoの金融商品自体を贈与することは困難ですが、非課税投資を継続しながら生前贈与を検討する方法として、キャッシュフローの最適化という視点があります。
非課税投資で得られた運用益は非課税で再投資されるため、効率的に資産を増やすことが期待できます。もしご自身に十分な預貯金や特定口座資産があり、かつ年間110万円の贈与税基礎控除を活用した贈与を検討しているのであれば、非課税投資を継続しつつ、その運用益(将来の売却益)を自身の生活費に充当し、その分預貯金などの他の資産から計画的に贈与を行うという戦略が考えられます。
これは直接的に非課税資産を贈与するものではありませんが、非課税投資による資産増加の恩恵を自身の家計に還元し、その結果生まれた余剰資金を贈与に回すという間接的な方法と言えます。贈与は長期にわたって計画的に行うことで大きな効果を発揮する場合があるため、非課税投資による資産形成と並行して、家計全体のキャッシュフローを見直し、贈与に充てられる資金がないか検討することも有効です。
非課税資産の「見守り」と「引き継ぎ」計画
相続や贈与といった将来の資産承継を円滑に進めるためには、資産形成の段階から家族との情報共有や、万が一の場合の対応について準備しておくことが重要です。
家族との情報共有
ご自身のつみたてNISAやiDeCoといった非課税口座の存在、利用している金融機関、IDやパスワードの管理方法などを、信頼できるご家族と共有しておくことは非常に重要です。万が一の場合、ご家族が口座の存在を知らなければ、手続きが遅れたり、最悪の場合、資産の存在が分からず手付かずになってしまうリスクも考えられます。
具体的な金融機関名、口座番号、連絡先、そしてどのように積立・運用しているのか、といった情報をまとめたエンディングノートや覚書を作成しておくことも有効な手段です。
iDeCo受取人の指定
iDeCoについては、あらかじめ死亡一時金の受取人を指定しておくことが可能です。指定がない場合は法定相続人となりますが、特定の家族に確実に引き継ぎたい意向がある場合は、事前に受取人を指定しておくことで手続きがスムーズに進む可能性があります。指定できる範囲には一定の制約があるため、ご利用の金融機関にご確認ください。
まとめ
つみたてNISA・iDeCoによる非課税投資は、ご自身の老後資金形成という主要な目的に加え、将来の相続や贈与といった資産承継の観点からも、その位置づけや活用方法を計画的に検討することが、非課税枠で築いた資産の価値を最大限に活かすことに繋がります。
自身のライフプランを最優先としつつ、資産全体を俯瞰し、非課税期間終了後の資産の取り扱いや、キャッシュフローを考慮した生前贈与との連携などを検討することが有効な戦略と言えます。
また、どのような資産をどのように引き継ぐかという意思を明確にし、ご家族と情報共有しておくことは、円滑な資産承継のために欠かせません。非課税投資を通じて築かれた大切な資産を、ご自身の将来、そしてご家族の未来のために最大限に活かす計画を、この機会に立ててみてはいかがでしょうか。必要に応じて、税理士やファイナンシャルプランナーといった専門家にご相談されることも、より適切な判断をする上で有益です。