40代・50代向け 複数の非課税枠を最大限に活かす資金配分と優先順位戦略
複数の非課税枠を持つ時代の資金配分戦略
資産形成において、税制優遇を受けられる非課税制度の活用は不可欠です。特に40代・50代の皆様の中には、つみたてNISAやiDeCoといった既存の制度に加え、新しいNISA制度も活用されている方が多いかと存じます。複数の非課税枠を保有する状況下で、限られた資金をどのように配分し、それぞれの非課税メリットを最大限に引き出すかは、効率的な資産形成の重要な鍵となります。
ここでは、つみたてNISA、iDeCo、そして新しいNISA制度における資金配分の考え方と優先順位付けについて、具体的な戦略とヒントをご紹介します。
各非課税制度の特性再確認:戦略の土台を築く
資金配分戦略を立てるにあたり、まずは各制度の特性を改めて整理することが重要です。
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iDeCo(個人型確定拠出年金)
- 最大のメリット: 拠出時、運用時、受取時の税制優遇。特に、拠出額の全額が所得控除の対象となる点が強力です。これにより、毎年の所得税・住民税を軽減できます。
- 運用の特性: 運用益は非課税。原則60歳まで引き出せないため、老後資金形成に特化した制度です。
- 拠出限度額: 加入者の立場(会社員、自営業者など)や他の年金制度(企業型DCの有無など)により異なります。
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つみたてNISA(旧制度)
- メリット: 運用益が非課税。年間40万円までの投資枠があり、最長20年間運用益が非課税となります。
- 運用の特性: 厳選された投資信託・ETFが対象。長期・積立・分散投資に適しています。
- 出口: 非課税期間終了後、課税口座への移管となりますが、運用途中での引き出しは比較的自由です。新規投資は2023年末で終了しています。
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新しいNISA制度
- メリット: 運用益が非課税。年間360万円(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)、生涯で1,800万円(内、成長投資枠1,200万円上限)まで非課税で運用できます。非課税期間は無期限化されました。
- 運用の特性: つみたて投資枠は旧つみたてNISA対象商品に準じ、長期・積立・分散投資向き。成長投資枠はより幅広い投資信託や株式に投資可能です。
- 出口: 非課税保有限度額の範囲内で、比較的自由に売却・再投資が可能です。
これらの特性を踏まえると、iDeCoは「老後資金を税負担を軽減しながら確実に作る」ための強力なツール、旧つみたてNISAは「中期〜長期の特定目的資金や柔軟性のある長期資産」を作るためのツール、そして新しいNISA制度は「無期限・高額の非課税枠を活用し、柔軟な長期資産形成を行う」ための基幹ツールとして位置づけられます。
限られた資金をどう配分するか:優先順位の考え方
年間の投資可能額には限りがある場合がほとんどです。複数の非課税枠を持つ中で、どの制度から優先的に活用していくべきか、基本的な考え方を示します。
優先順位の基本原則:iDeCoの所得控除を最大限に活用
もし所得があり、所得税・住民税を納めているのであれば、iDeCoの満額拠出を最優先で検討することをおすすめします。
iDeCoの所得控除は、拠出額に応じてその年の税負担が確実に軽減されるという、他の制度にはない強力なメリットです。例えば、年間24万円(月2万円)iDeCoに拠出した場合、所得税率20%、住民税率10%と仮定すると、年間約7.2万円(24万円 × (20% + 10%))の税金が軽減されます。これは、運用益が非課税になるメリットとは別に、投資元本に対する確実なリターンと捉えることができます。このメリットを最大限に享受するため、まずはiDeCoの拠出限度額いっぱいまで資金を振り向けることを検討してください。
iDeCo満額後の優先順位:新NISAの活用
iDeCoの拠出限度額まで資金を振り向けた後、さらに投資に回せる資金がある場合は、新しいNISA制度の活用を優先します。
新しいNISA制度は非課税期間が無期限であり、生涯にわたる資産形成において中心的な役割を果たします。年間投資枠も旧制度より大幅に拡充されており、長期的な非課税メリットを享受できる点が大きな魅力です。特に、非課税保有限度額(1,800万円)を効率的に埋めていくことが、将来の資産最大化に繋がります。
新しいNISA制度内では、まずは「つみたて投資枠」(年間120万円まで)の活用を検討し、さらに投資余力があれば「成長投資枠」(年間240万円まで)も活用するという流れが一般的です。
旧つみたてNISA枠の扱い方
旧つみたてNISAでの新規投資はできませんが、既に保有している非課税枠は、非課税期間(最長20年間)が終了するまで運用益が非課税です。この貴重な非課税枠は、売却せず運用を継続することをおすすめします。非課税メリットを享受できる期間いっぱいまで資産を育て、非課税で受け取ることで、旧制度の価値を最大限に活かすことができます。運用中のポートフォリオ見直しが必要な場合は、非課税枠内でのスイッチングや、特定口座などとの資産全体のバランスを考慮して検討します。
具体的な資金配分シミュレーション例
年間で投資に回せる金額を想定し、具体的な資金配分の例を示します(企業型DCに加入しておらず、iDeCoの拠出限度額が年間27.6万円の場合)。
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例1:年間投資可能額 60万円の場合
- iDeCoに27.6万円拠出(満額)。
- 残りの32.4万円を新しいNISA制度(つみたて投資枠)に拠出。
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例2:年間投資可能額 100万円の場合
- iDeCoに27.6万円拠出(満額)。
- 新しいNISA制度(つみたて投資枠)に年間72.4万円(月約6万円)を拠出。つみたて投資枠の上限120万円には届かないが、非課税枠を最大限活用。
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例3:年間投資可能額 200万円の場合
- iDeCoに27.6万円拠出(満額)。
- 新しいNISA制度(つみたて投資枠)に120万円拠出(満額)。
- 残りの52.4万円を新しいNISA制度(成長投資枠)に拠出。
このように、まずは所得控除メリットの大きいiDeCoを満額近くまで拠出し、次に新しいNISA制度のつみたて投資枠、そして成長投資枠という優先順位で資金を配分することが、税負担を最小限に抑えつつ、非課税メリットを最大限に享受するための基本的な戦略となります。
ライフステージとリスク許容度を踏まえた調整
上記の優先順位はあくまで一般的な考え方です。ご自身のライフステージ(教育費、住宅ローン、リタイアメント時期など)や、リスクに対する考え方(リスク許容度)に応じて、柔軟な調整が必要です。
例えば、近い将来に大きな資金が必要になる可能性がある場合は、iDeCoのように原則60歳まで引き出せない制度への拠出額を調整し、新しいNISA制度や特定口座など、より流動性の高い資産での運用を優先することも検討できます。また、リスク許容度が高い場合は、成長投資枠や特定口座で、リスクは伴うもののリターンが期待できる商品への投資比率を高めるといった戦略も考えられます。
複数の非課税枠を保有しているからこそ、全体の資産構成やリスク分散、将来の資金ニーズを総合的に考慮した、より洗練された資産形成戦略を構築することが可能となります。
まとめ
つみたてNISA、iDeCo、そして新しいNISA制度といった複数の非課税枠は、それぞれ異なる特性とメリットを持っています。これらの制度を連携させ、ご自身の所得状況、年間投資可能額、ライフプラン、リスク許容度に合わせて資金配分の優先順位を戦略的に決定することが、税負担を軽減しつつ効率的に資産を形成するための重要なステップです。
まずはiDeCoの所得控除メリットを最大限に活かすことを基本とし、次に新しいNISA制度の無期限・高額非課税枠を効率的に埋めていくことを検討してください。旧つみたてNISA枠は、その非課税期間を有効活用し、運用を継続することが賢明です。自身の状況に最適な資金配分戦略を見つけ、非課税枠を最大限に活用した資産形成を着実に進めていくことが、将来に向けた安定した資産形成に繋がります。