非課税投資 最大活用術

つみたてNISA・iDeCo 非課税期間終了後を見据えた資産の出口戦略:課税を抑える方法

Tags: つみたてNISA, iDeCo, 出口戦略, 税金対策, 資産形成, リタイアメント

つみたてNISAやiDeCoといった非課税制度を活用した長期の資産形成は、多くの投資家にとって重要な戦略となっています。非課税期間中の運用益が非課税となるメリットは大きいですが、この非課税の恩恵を最大限に活かすためには、運用期間中だけでなく、非課税期間が終了した後や資産を受け取る際の「出口戦略」を計画的に検討しておくことが不可欠です。特に40代、50代に入りますと、定年やリタイアメントといった具体的なライフイベントが視野に入り始め、積み上げてきた資産をどのように活用していくかという課題が現実味を帯びてまいります。

本稿では、つみたてNISAおよびiDeCoの非課税期間終了後、あるいは資産受け取り時における、課税負担を抑制しつつ資産を有効活用するための具体的な考え方やステップについて解説いたします。

つみたてNISAにおける非課税期間終了後の資産の取り扱い

つみたてNISAの非課税投資枠で購入した投資信託は、非課税期間(投資した年から20年間)が終了すると、原則として課税口座(特定口座または一般口座)へ移管されます。この際、移管時点の時価が新たな取得価格とみなされます。非課税期間中に発生した運用益に対しては課税されませんが、課税口座へ移管された後の運用益や、将来売却した際に移管時の時価を上回る売却益に対しては、譲渡所得として所得税・住民税等が課税されます(通常20.315%)。

非課税期間終了が近づいてきた際の選択肢としては、主に以下の二つが考えられます。

  1. 非課税期間終了時に売却する
  2. 非課税期間終了後、課税口座へ移管して運用を継続する

どちらを選択するかは、非課税期間終了時の含み益の状況や、今後の資金計画によって判断が分かれます。

例えば、非課税期間終了時点で多額の含み益が出ている場合、課税口座への移管後に価格が下落し、移管時の時価を下回る水準で売却すると、課税口座での損失となります。しかし、非課税期間中に積み上げた利益は確定しているため、非課税の恩恵は十分に受けたと考えることもできます。一方、移管後さらに価格が上昇した場合、その上昇分に対して課税されることになります。

課税口座への移管を選択した場合、その後の売却益に対して課税されることを考慮し、資金が必要となるタイミングに合わせて計画的に売却を行うことが、税負担を分散させる一つの方法となります。また、他の特定口座で運用している資産との間で、含み損のある資産を売却して損益通算を行うことも、全体の税負担軽減に繋がり得ます。

iDeCoにおける資産の受け取りと税金

iDeCoで積み立てた資産は、原則として60歳以降に一時金、または年金、あるいは一時金と年金の組み合わせで受け取ることができます。iDeCoの受け取り方法は、税制面で大きな優遇措置が設けられており、ご自身の他の退職金や年金収入の状況に応じて、最適な受け取り方法を選択することが税負担を最小限に抑える鍵となります。

一時金として受け取る場合

一時金として受け取る場合、その収入は「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」の適用を受けることができます。退職所得控除額は、iDeCoの加入期間(勤続年数とみなされます)に応じて以下のように計算されます。

例えば、25年間iDeCoに加入していた場合、退職所得控除額は 800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) = 800万円 + 350万円 = 1,150万円 となります。

この控除額を差し引いた後の退職所得は、さらにその1/2に課税されます。つまり、退職所得控除額の範囲内であれば税金はかからず、控除額を超えた部分のさらに半分に税金がかかるという、非常に有利な税制です。ただし、同じ年に他の退職金を受け取る場合、それらの退職金とiDeCoの一時金は合算されて退職所得控除が適用されます。複数の退職金がある場合は、退職所得控除額をどのように活用するかが重要になります。

年金として受け取る場合

年金として受け取る場合、その収入は「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」の適用を受けることができます。公的年金等控除額は、受け取る方の年齢や公的年金等の合計収入金額によって異なります。例えば、65歳以上で公的年金等の収入が年間330万円未満の場合、年間110万円の控除を受けることができます(令和2年分以降)。

公的年金等控除を差し引いた後の金額が、他の雑所得(個人年金保険の年金など)と合算され、合計額から基礎控除などを差し引いた金額に対して所得税・住民税が課税されます。 iDeCoの年金を受け取る場合は、老齢基礎年金や老齢厚生年金といった他の公的年金収入と合算されるため、全体の年金収入が多いほど税負担が増加する可能性があります。

一時金と年金の組み合わせ

iDeCoの受け取り方法を一時金と年金の組み合わせとする選択肢もあります。例えば、一部を一時金として受け取り退職所得控除を活用し、残りを年金として受け取り公的年金等控除を活用するなど、ご自身の退職金や他の公的年金の受給状況、今後の資金計画に合わせて、それぞれの控除枠を有効に使い分けることで、全体の税負担を最適化できる可能性があります。

受け取り開始時期を遅らせることも検討に値します。60歳から75歳までの間で受け取りを開始できますが、受け取りを遅らせることで、その間も引き続き運用による資産増加を目指せる可能性があります。また、受け取り開始時の税制やご自身の所得状況に応じて、より有利な条件で受け取れる可能性も考えられます。

つみたてNISAとiDeCoの出口連携

つみたてNISAとiDeCoの両方で資産形成を行っている場合、それぞれの出口戦略を個別に考えるだけでなく、両者を連携させた全体的な戦略を立てることが重要です。

まとめ

つみたてNISAやiDeCoといった非課税制度は、長期の資産形成において大きな恩恵をもたらしますが、その非課税メリットを真に最大化するためには、運用期間中の戦略と同様に、非課税期間終了後や資産を受け取る際の出口戦略の検討が不可欠です。特に、資産を受け取る際の税金は、手取り額に直結するため、iDeCoの一時金受け取りにおける退職所得控除や、年金受け取りにおける公的年金等控除の仕組みを正確に理解し、ご自身のライフプランや他の所得状況に合わせて最適な受け取り方法を選択することが非常に重要となります。

計画的な出口戦略は、単に税負担を軽減するだけでなく、将来にわたるキャッシュフローを安定させ、安心して資産を取り崩していく上での礎となります。ご自身の積立状況や将来のライフプラン、退職金の見込みなどを踏まえ、早めの段階から具体的な出口戦略について検討を進めていただくことを推奨いたします。