つみたてNISA・iDeCo 非課税評価益を最大限に活かす具体的戦略
はじめに:非課税投資における「評価益」の重要性
つみたてNISAやiDeCoといった非課税制度を活用した長期投資において、日々の価格変動に伴って生じる「評価益」は、まさに非課税メリットの核心部分と言えます。運用期間が長くなるにつれて、積み立てた元本以上にこの評価益が大きく育っていくことも少なくありません。
この非課税である評価益をどのように捉え、どのように活用していくかは、資産形成の成果を大きく左右する重要な論点となります。単に積立を継続するだけでなく、運用中の資産状況、特に評価益の状況を定期的に確認し、自身のライフプランやリスク許容度に合わせて戦略的に考えることが、非課税枠の価値を最大限に引き出す鍵となります。
本記事では、つみたてNISAやiDeCoで生まれた非課税評価益を最大限に活かすための具体的な考え方と戦略について、深く掘り下げて解説いたします。
非課税評価益の価値とは
投資で得られる利益には、主に値上がりによる「売却益(譲渡所得)」、配当金や分配金といった「インカムゲイン」があります。通常の課税口座では、これらの利益に対して所得税・住民税等合わせて20.315%の税金が課されます。
しかし、つみたてNISAやiDeCoといった非課税制度を活用することで、運用期間中に得られた利益(評価益、売却益、分配金等)には一切税金がかかりません。この「非課税」という点が、長期資産形成において計り知れないメリットをもたらします。
特に評価益は、含み益として資産全体を押し上げる役割を果たします。税金で目減りすることなく資産が増加していくことは、複利効果を最大限に享受するために不可欠です。例えば、年間5%で運用できた場合、課税口座では税引き後約4%の利益となるところ、非課税口座では丸ごと5%の利益が再投資されるのと同じ効果が得られます。この差は、長期間運用を続けるほど、雪だるま式に大きくなっていきます。
評価益に対する基本的な考え方:なぜ「売らない」が原則か
非課税枠内で評価益が大きく育った際、利益確定のために一度売却することを検討される方もいらっしゃるかもしれません。確かに、利益を確定することで、相場下落による評価益の減少を防ぐことは可能です。
しかし、つみたてNISAやiDeCoにおける非課税評価益に対する基本的な考え方としては、「非課税期間中は極力売却せず、評価益を確定させない」ことが原則となります。その理由は以下の通りです。
- 非課税期間の最大限の利用: つみたてNISAの非課税期間は20年間、iDeCoは原則60歳までです。この期間中に得られた利益こそが非課税の恩恵を最も受けられる部分です。途中で売却し、非課税期間が終了した後に同じ商品や別の商品を買い直した場合、その後の利益は課税対象となる可能性があります(新しいNISA枠など、別の非課税枠で買い直す場合は別論です)。
- 複利効果の継続: 非課税の評価益は、そのまま保有していれば、その評価益自体が新たな利益を生み出す「複利効果」を継続させます。税金がかからない分、複利の力は最大化されます。売却してしまうと、この複利のサイクルを一度断ち切ることになります。
- 長期投資の視点: つみたてNISA・iDeCoは長期的な資産形成を目的とした制度です。短期的な相場変動に一喜一憂して売買を繰り返すことは、制度の趣旨にも反し、かえって非課税枠を有効活用できない可能性が高まります。
したがって、非課税枠内の評価益は、単なる数字上の含み益としてではなく、「将来の非課税の果実」として、大切に育てていくという視点が重要です。
非課税評価益を「活かす」具体的な戦略
原則は長期保有とお伝えしましたが、評価益の状況や自身のライフステージに応じて、戦略的に評価益を「活かす」ことも考えられます。ここでは、いくつかの具体的な戦略を提示します。
戦略1:評価益を確定せず、非課税期間を最大限利用する(基本戦略)
これが最もシンプルかつ、非課税メリットを最大限に享受しやすい戦略です。 評価益が大きく出ている場合でも、利益を確定するための売却は行いません。そのまま保有を続け、非課税期間が終了するまで複利効果の恩恵を受け続けます。
- メリット: 非課税のメリットを最も長く、最も強力に享受できる。管理の手間が少ない。
- デメリット: 相場が下落した場合、評価益が減少または損失に転じるリスクはある。
- 向いているケース: まだ非課税期間に十分な余裕がある方、長期的な資産形成を最優先する方、短期的な価格変動に動じない方。
戦略2:評価益を確定し、再投資に回すケース(リバランス目的等)
ポートフォリオのリバランスを目的として、評価益が出ている資産の一部または全部を売却し、他の資産クラスや、同じ非課税口座内の別のファンドに再投資する戦略です。
例えば、株式クラスの評価益が大きくなり、自身の目標とする資産配分比率から外れてしまった場合、株式を一部売却して評価益を確定し、債券など他の資産クラスの購入に充てる、といった方法です。
- メリット: 自身のリスク許容度や目標リターンに合わせた資産配分を維持できる。評価益を確定することで、少なくともその時点での利益は確保できる。
- デメリット: 一度売却すると、その売却した枠を同じ年に再度利用することはできません(特にNISAの場合)。また、非課税期間の途中で売却することによる長期複利効果の一部喪失は避けられません。
- 注意点: 売却した資金を課税口座で再投資した場合、その後の運用益には税金がかかります。必ず同じ非課税口座内での再投資、または新しいNISA枠など別の非課税枠を活用することを検討してください。iDeCoの場合、売却資金はiDeCo口座内でしか運用できません。
戦略3:評価益を確定し、他の目的(生活費、大きな出費)に充てるケース(出口戦略の一部)
つみたてNISAの非課税期間終了時や、iDeCoの受け取り開始時期が近づいてきた際、あるいは特定のライフイベント(住宅購入の頭金、子供の教育資金など)のために資金が必要になった場合に、評価益を確定させて資金を引き出す戦略です。
これは、非課税枠を「出口」として活用する考え方の一部です。税金がかからない状態で利益を確定し、その資金を自身の人生のニーズに合わせて使用できます。
- メリット: 非課税で得た利益を、必要な時期に必要な形で利用できる。
- デメリット: 一度引き出した資金は、原則として同じ非課税枠に再び戻すことはできません。特にiDeCoは、原則60歳まで引き出しが制限されています。つみたてNISAの非課税期間終了後の取り扱いにも注意が必要です。
- 注意点: 資金が必要となる時期から逆算し、計画的に売却・引き出しを行うことが重要です。iDeCoは一定の要件を満たさないと引き出しができません。つみたてNISAで非課税期間(20年)が終了した資産は、課税口座に移管されるか、売却する必要があります。新しいNISAへの移管も可能ですが、年間投資枠内でしか移せません。
戦略実行上の注意点と考慮事項
非課税評価益の活用戦略を検討する際には、以下の点に留意する必要があります。
- 非課税枠の再利用可否: つみたてNISAもiDeCoも、一度非課税枠内で売却して引き出した資金は、原則としてその非課税枠の「投資枠」としては再利用できません(年間投資枠を使い切っていなければ、別途新規資金を投資することは可能です)。特にiDeCoは途中で引き出しが困難な制度です。
- 課税口座への移管リスク: つみたてNISAの非課税期間が終了した資産をそのまま保有する場合、課税口座に移管されます。この際、移管時の価格が取得価格とみなされ、その後の値上がり益に対して税金がかかることになります。大きな評価益が出ている場合、課税口座への移管は将来の税負担を増やす可能性があります。
- 売却タイミング: 評価益確定を目的とした売却は、相場状況に左右されます。短期的な市場予測に基づいて頻繁に売買することは推奨されません。あくまで長期的な視点と自身の計画に基づいて判断すべきです。
- ライフステージの変化: 40代~50代は、子供の独立、住宅ローンの完済、リタイアメントの準備など、ライフステージが大きく変化しやすい時期です。これらの変化に合わせて、評価益を含む資産全体の見直しと、それに合わせた運用戦略の調整が必要になります。特に、リタイアメントに向けては、リスクを徐々に抑える方向でのポートフォリオ調整(評価益の確定を含む)も検討されることがあります。
- 新しいNISAとの連携: 2024年から始まった新しいNISA制度は、非課税保有限度額が大きく、非課税期間も無期限化されました。旧つみたてNISAやiDeCoで育った評価益を含む資産を、どのように新しいNISAと連携させて運用していくか、という視点も重要になります。例えば、旧NISAで得た利益を新しいNISA枠に移管(ロールオーバーに代わる考え方)することはできませんが、旧NISAやiDeCoで確定した利益を、新しいNISAの投資資金として充てることは可能です。
ポートフォリオ全体における評価益の位置づけ
非課税評価益は、資産形成の成果を示す重要な指標の一つですが、それだけに囚われすぎないことも大切です。資産全体の評価額、リスク許容度、将来の資金ニーズなどを総合的に考慮した上で、評価益に対する戦略を位置づけるべきです。
定期的なポートフォリオの見直し時には、評価益の状況を確認し、それが自身の目標とする資産配分やリスクレベルから大きく乖離していないかを確認してください。必要に応じて、リバランスなどの対応を検討します。この際、非課税枠内の資産は税制上の優遇があるため、課税口座の資産よりも優先的に長期保有を検討するなど、特性を活かした判断が求められます。
まとめ
つみたてNISAやiDeCoといった非課税投資で得られた評価益は、将来の資産形成における貴重な「非課税の果実」です。この評価益を最大限に活かすためには、単に積立を続けるだけでなく、その価値を理解し、自身の状況に合わせた戦略的な判断を行うことが重要です。
基本的には非課税期間を最大限に利用し、複利効果を享受するために長期保有を継続する戦略が推奨されます。しかし、ライフステージの変化、ポートフォリオのリバランス、あるいは将来の資金ニーズに応じて、計画的に評価益を確定・活用することも有効な戦略となり得ます。
ご自身の資産状況、将来計画、リスク許容度を定期的に見直し、非課税評価益を含む資産全体を、最適な形で育て、活かしていくことを目指しましょう。これにより、つみたてNISA・iDeCoの非課税枠を真に最大限に活用することができるでしょう。